【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「……何か、あったのか?」
「いえ、私のことをここまでお世話してくださっていることに対して、です。私、何処にお嫁に行くとしてもこの恩は忘れませんから」
「……そう、か。まぁ、サイラスたち使用人はリスター家に女主人としていてもらいたいと思っているようだがな」
「……ははは」

 そのお言葉に、私は乾いた笑いを零すことしか出来なかった。私は、この家に恩がある。だから、出来ればサイラスさんたちを始めとした使用人たちの望みは叶えたいと思っている。だけど、そのお願いは叶えられない。だって、私の夫となるのはサイラスさんたちの誰かではなく、他でもないギルバート様なのだ。……ギルバート様本人が、私のことをどう思われているかが重要。

「……そろそろ、着くぞ。街の外れに馬車を止めてもらうから、そこから歩いていくが……大丈夫か?」
「はい、動きやすい格好で来たので問題ありません」

 私がちょっとだけふんわりと笑ってそう言えば、ギルバート様は露骨に視線を逸らしてしまわれた。……照れていらっしゃるの、だろうか? なんだか、こういうところはやっぱり可愛らしい人よね。私にそう思われるのは嫌だろうけれど。

「……シェリル嬢」
「はい?」
「いや、綺麗だな、と思って」

 ギルバート様は、私にそれだけを告げられると「お、降りる準備を、してくれ」とおっしゃる。……これは、追及しない方がいいわよね。そう判断して、私は「はい」と返事をした。それから、ギルバート様は馬車に乗っている間私と視線を一度も合わせてくださらなかった。
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