【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「……シェリル嬢」

 そんな時、目を瞑った私の頭の上からそんなお声が降ってきた。……そのお声は、正真正銘ギルバート様のもの。いったい、ギルバート様は何がおっしゃりたいの? もしかして、私はもう眠ったものだと思われているの?

「シェリル嬢。……俺は、年甲斐にもなくシェリル嬢のことを大切に思ってしまったみたいだ。……出来れば、ずっとここにいてほしいと思うぐらいには」

 私の髪を梳く、ギルバート様の手。でも、それよりも。何故、そんなお言葉を呟かれるの? そのお言葉の意味が、私には全く分からない。だけど、ここで目を開けるのは得策ではない。そう判断し、私は眠っているふりを続けた。

「サイラスに言われた言葉の意味が、今日本当の意味でようやく分かった。……シェリル嬢は、強かだな。そして、何よりも心が綺麗だ。……なぁ、シェリル嬢――」

 ――ずっと、俺の側にいることは選択肢に入らないか?

 悲しそうな声音でそう言われて、私の胸がドキッと変な音を立てた気がした。……しかし、私はギルバート様のお隣に並べる自信がない。こんな小娘じゃ……この人には、釣り合わない。

(……私は、強かなんかじゃない。ただ、全てを諦めていただけよ)

 ギルバート様のお言葉に、心の中でそう返す。そうしていれば、ゆっくりと本当の眠りに落ちていく。睡魔に抗えなくなっていく私の耳に届いたのは――。

「……シェリル嬢」

 今まで聞いたお声の中で最も切なそうで、悲しそうなギルバート様のお声。眠る間近、私の胸はそのお声に反応してきゅんと締め付けられた気が、した。
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