【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「ねぇ、マリン――」

 とりあえず、頭痛薬が欲しい。そう言おうとした時だった。不意に、今までとは比べ物にならないぐらいの頭痛が、私を襲った。ズキズキと痛む頭を抱え、私がその場にうずくまってしまえば、クレアとマリンが私の名前を慌てて呼ぶ。……無理。これは、立っていられない。

「クレア! 今すぐ旦那様とサイラスさんに連絡を!」
「わ、分かった!」

 マリンの指示を聞いて、クレアがお部屋から駆けていく。徐々に視界がぼやけ、かすんでいく。そんな中、心配そうな表情を浮かべたマリンが、私に近づいてきて背を撫でてくれた。

(嫌だ。一人に、しないで――!)

 マリンが私の側に居てくれているのに。何故か、私は不安で仕方がなくて。震える手で、マリンの腕に縋る。行かないで。私を一人にしないで。そう思い、マリンに縋ればマリンは私のその手を握って、「ここにいます」と言ってくれた。それが、とてもありがたくて。

(私……今まで、こんなことになってもずっと一人だった)

 頭が酷く痛む中、私はふとそう思った。私が体調を崩しても、実家では心配してくれる人は使用人だけだった。でも、使用人たちにはそれぞれ仕事がある。だから、私はずっと一人で苦しみ耐えていた。……体調を崩すと、どうしようもなく不安になってしまう。だからだろうか、私は心の奥底でずっと「一人にしないで」と叫んでいた。

「――シェリル様、まずは、寝台に戻りましょう」

 マリンの声が、どこか遠くから聞こえてくる。だけど、その手のぬくもりが私に「一人じゃない」と伝えてくれる。それに安心した私は、遂には意識を保っていることも出来ず、意識を失ってしまう。

 これは、ただの疲れや風邪ではないということを、私は意識を失う間際に確信していた。
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