君はまだ甘い!
(キョロちゃん?!)
少し、ホッとした。

肩下まであるまっずぐな髪を垂らし、上品な白のロングコートが似合う色白の肌をしたその小柄な女性は、小さめのハンドバッグを肩に掛けていて、「こんにちは!」とマヤに笑いかけた。
続いて、彼女より少し背が高めの30代後半くらいに見える男性が入ってきた。
夫の”マックス”だろう。
手には紙袋を3つほど抱えている。
ショッピングを楽しんできたのだろうか。

聞こえるか聞こえないか、くらいの小さな声で、

「ちは」

と言って頭を下げる。

「キョロちゃんと・・・マックスさん?」

マヤはニコッと微笑みながら、一応確認した。

うんうんとキョロちゃんは頷き、「初めまして!」と右手を差し出してきたので、マヤはその手を取って握手した。

二人は並んでマヤの前の席に座った。

「買い物してきたんですか?」

ゲーム中はほぼタメ口だが、まだ畏まってしまう。

「うん、友人に勧められていたスイーツのお店と、あと、雑貨店をウロウロして、お土産を買ってたの。」

キョロちゃんは、だんなといるからだろうか、いつもの口調でリラックスしている。

「明日は奈良に行くので、今日のうちに大阪を堪能しておこうと思ってるんだ」

三人でしばらく歓談していると、ガタンっと大きな音がして引き戸が開かれた。

ずかずかと入ってきた一人の中年男。
間違いなく帝王だろう。

「よう!」

右手を挙げ、じろじろと三人をなめ回すように見ている。

身長は170あるかないか、といったところ。
12月だというのにピンクのポロシャツに薄手のジャケットを羽織っているだけで下はジーンズだ。
お腹がポッコリ出ている。
階段が堪えたのだろう、額にうっすら汗を搔き、少し息切れをしている。

マヤの顔をまじまじと見つめ、

「ほう、そういう顔か」

とわざとらしく鼻を鳴らして笑う。

やっぱりイラつく奴だ。

「そっちこそ、想像通りやわ」

こちらも負けじと不敵に笑ってやった。

「まだこれだけか?」

時間を見ると、11時58分。

そして、その場にいる全員のスマホの着信音が鳴った。
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