君はまだ甘い!
ルイからだ。

『事故渋滞に引っかかってて遅れてるので先始めといて。あ、ちなみに彼女連れてきた。運転手として』

ルイは以前、10年近く同棲している彼女がいる、と言っていた。
逆算すると、高校からということになるが、どうも高校は中退しているらしい。
驚いたのは、彼女の年齢。
マヤと同い年らしい。つまり、四十一歳でルイとは十七歳差だ。

ルイはプライベートについてはあまり口にしないが、帝王からの情報によると、少年時代は複雑な家庭環境で育ち、家出やリストカットを繰り返したという苦労人らしい。
普段の明るい口調や話す話題などからは想像もつかないが。
そんな中で彼を救ってくれたのがその年上の彼女だということだ。

その彼女ともご対面できるということなので、また興味のネタが一つ増えた。

さて、あとはトオルである。

(無事に駅に着いたのだろうか?)

「店の前まで見に行ってやった方がいいんじゃね?」

帝王が言う。

(アンタが行けばいいやん。どうせ4階までの階段を下りるのが嫌なんやろ)

スマホをのぞき込みながら、そんなことを考えていると、引き戸が開き、店員に案内されて一人の大男が顔を出す。
鴨居に頭をぶつけそうになりながら、少し体をかがめて入ってきた。
180超えどころじゃないな、と思った。ただ、横幅はそれほどない。
ダッフルコートを着ているがどちらかというとほっそり見える。細身のブラックジーンズが足の長さを強調している。
そして、その顔はマヤの勝手な想像で作り上げていたものとは程遠い、いわゆるイケメンだった。
トオルとは他のメンバー程話す機会も無かったし、性格的にのんびりしていそうというくらいしかイメージする材料が無かったので、癒し系で人気のあるお笑い芸人の顔を勝手に当てはめていた。


太めの眉に、くっきりとした二重の目。凛々しいのだが、垂れ目なので、それほど目力が強調されない。
鼻筋が通っていて、口角の上がった少し厚めの唇が艶っぽい。
肌が透き通るように白い。多分マヤよりも白い。

「遅くなりました。トオルです。何とかたどり着けて良かった!」
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