君はまだ甘い!
最初は無断外泊から始まり、休日もスマホを頻繁にチェックしては「ちょっと散歩」と出かけ、そのまま夕食の時間にも戻らず、マヤと娘が寝静まってから帰宅することもあった。
問いただしても、急な仕事の呼び出しだの、友人の悩み相談だの、稚拙な言い逃ればかり。
それで誤魔化せていると思っていたようだ。
別れた今だから遠慮なく言えるが、「ルックスは良いが、知性が若干足りない男」だった。

「ご主人、ハンサムですね」と言われて一人悦に入っていたのは、新婚時代だけ。
そう、イケメンも三日で飽きる。
それどころか、結婚生活には何の役にも立たず、円満な家庭を育むのには害になるだけだと身にしみてわかった。
常に女の影がちらつく夫なんて、心の平穏を妨げる存在でしかなかった。

それでも、昭和初期生まれの親に育てられた、こちらも昭和の女。
一度添い遂げると決めた相手なのだから、多少のことには目を瞑り、できるだけ平穏にこの結婚生活を維持していくのが努めだと固く信じていた。
そう、結婚とは試練の始まり、人生の修行なのだ、と。

しかし、ある日心と体に限界が来た。パニック発作で呼吸困難になり、救急車で運ばれたのだ。
その時も当人は不在。女と会っていた。

その後互いの親と話し合いが持たれ、さすがにしばらくは女関係を一切絶っていたようだった。

が、数年後、あっけなく離婚が決まった。

「本気で一緒に生きていきたいと思う相手ができたから、離婚したい」

改まった表情でそう告げるヒロキからは、それまでには無かった真剣さと必死さが確かに見て取れた。
しかしそれは、昔マヤが観たB級映画の荒唐無稽なコメディアンの演技を思い出させるだけであった。
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