君はまだ甘い!
”失敗”という言葉に敏感に反応した。
人生に失敗なんて付き物だし、これまで数えきれないほどの大小様々な失敗を繰り返してきた。
それでもそれらからは何かしらの教訓を得たり、時にはきれいさっぱり忘れることで何とか前に進んできた。
しかし、離婚というのは特別なケースだ。
自分だけの問題ではない。
娘から父親を引き離してしまい、片親の子にしてしまった負い目もある。
そしてその娘を一人で育てていかなければいけないプレッシャーはいまだにマヤを押し潰そうとしてくる。

たとえ夫が浮気をやめなくても、家族として機能させていく覚悟はあった。
惚れた腫れただけではご飯は食べられない。
給料を入れて、娘に対してだけは父親をしていてくれればそれ以上を望まないし、夫として立てるつもりでもあったのに。
向こうから別れたいと言われては、もうどうしようもなかった。

お酒も入っていたからだろう。様々な感情がこみ上げ、鼻がツンとなった。
気付けば涙がポロポロと零れ落ちていた。

(こんな所で泣きたくない!それこそ場をシラケさせてしまうではないか。いや、違う、別に悲しくもないのに!)

「ごめん、トイレ」

流れる涙を少年の様に手の甲で乱暴に擦り取り、立ち上がってすぐそばの出入り口から出て行った。

(最悪だ・・)

せっかく今日という日を楽しみにここ1か月仕事も頑張って、張り切って幹事まで引き受けたのに。
初対面のゲーム仲間との和やかな飲み会でこんな醜態をさらけだして、盛り上がるはずの宴会を台無しにしてしまう。

二階にトイレがあるので、とりあえずそこまで降り、手前の洗面所に入る。
鏡を見るとすでに化粧も崩れて、目は真っ赤になっていた。
慌てて化粧直しをして、鼻をかんだ。

(みんな今頃何を話してるのだろう。帝王は責められているのだろうか。)

帝王には腹が立つけれど、正直、負けたくない気持ちもあった。
言葉の応酬でやり合うのではなく、できれば大人の対応で余裕を見せつけたい。

それに、ルイやトオル、キョロちゃんたちとはいつまた会えるかわからないのだ。
彼らとの時間をもっと楽しみたいし、せっかくの久しぶりのプライベートな宴会も満喫したい。

そう思ったら、急に落ち込んでいるのが馬鹿らしくなった。

(帝王なんか無視だ!)
(なんだ、”帝王”って。ミスマッチにも程がある!)

入る時とは打って変わって不敵な笑みさえ浮かべ、意気揚々と洗面所を出たところで、あるはずのない大きな”壁”にぶつかった。
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