君はまだ甘い!
「痛っ!」

見上げると、トオルが立っていた。

「大丈夫ですか?」

心配そうにこちらを覗き込む。先ほどマヤがトオルに掛けた言葉だ。

少しよろけた後、体勢を立て直しながら応えた。

「全然、大丈夫!ごめんね、なんかしらけさせちゃったよね~」


そうでなくても通路が狭い上、トオルの図体が大きいので、明らかに行き来する店員の邪魔になっている。
通路を開けようとトオルが壁側に寄り、結果マヤにかなり密着する体勢になった。
思わずマヤが後ずさりしようとすると、そのままトオルはマヤの両肩に手を置いて言った。

「マヤさんが謝る必要ないですよ。次は楽しい話題になるよう、オレ、おしゃべり頑張りますね!」

「へ?」

一瞬その動作と言葉の意味が分からず、30センチ近く高い位置にあるトオルの顔を見上げると、今日イチ爽やかな笑顔でマヤを真っすぐに見つめていた。

これまで生きてきた中で、人間を「眩しい」と感じたことは無かった。
比喩や抽象的な表現などではなく、物理的に目がチカチカして思わず瞬きを重ねた。

さらに触れられたままの両肩からトオルの熱がじんわり伝わってくる。

(この人、距離感バグってる?)
(おしゃべりを頑張るってどういうこと?)

店員がいかにも邪魔だと言わんばかりの表情で、マヤたちの傍らを通り過ぎる。
それを一瞥しながら、マヤの心は混乱の渦に巻き込まれていった。




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