君はまだ甘い!
そのすらりとした体型と白い肌に馴染んだ、柔らかな白のハイゲージニットのお腹辺りは一面茶色く染まり、水を滴らせている。

咄嗟に濡れた部分に手をやろうとしたトオルの手を、「熱いから!」とマヤは慌てて駆け寄り払いのけた。

騒ぎを見て駆け寄ってきた店員が、トオルを見るなりすぐにバックヤードに走って行った。

火傷はとにかく初期対応が重要だ。
まずは、トオルのびしょ濡れになったセーターとアンダーシャツを無遠慮にめくり上げると、露わになったトオルの腹をのぞき込む。
その少し幼さが残る顔立ちとは対照的な、見事に割れた腹筋が目に飛び込んできた。
こんな状況でなければマヤは見惚れていたかもしれない。が、今はそれどころではない。
やはり一部が濡れて赤くなっている。マヤは思わず手を伸ばし、ふき取るように摩った。

「ちょっ、マヤさん!」

いきなりのマヤの行動にトオルは動揺した様子だったが、マヤは構わず摩り続けた。

その数メートル先で、地面に座り込んでいた帝王が、よろよろと立ち上がり足早に立ち去っていくのが見えた。

店員がタオル数枚を持って来てくれたので、マヤは礼を言って受け取った。
すぐにドリンクバーの氷を取り出しタオルの上に載せると、くるくる巻いてトオルのお腹に当てた。

「冷てっ!」

トオルは思わず体を後退させたが、マヤはもう片方の手でその背中を押さえて体を固定し、さらに押し付けた。

「マヤさん、容赦ないですね…」

トオルはわざとらしく拗ねた様に唇を尖らせるが、その頬はほんのり赤く染まっていた。

とりあえず応急処置を施したことで冷静さを取り戻したマヤは、氷タオルを押さえながら改めて尋ねる。

「なんで来たの?」

若干咎めるような口調になった。

偶発的な事故とはいえ、この罪のない青年に危害を加えてしまったことへの罪悪感と、おそらく帝王との一部始終を見られた、という気まずさが入り混じっていた。

「いや、ほんとオレも何が何だか・・・」

トオルは苦笑しながら、腹に押さえられている氷タオルを見つめた。
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