君はまだ甘い!
「本当にもう大丈夫?痕が残らないかな。」

「大丈夫ですよ。なんなら今、確認してみます?」

トオルは飲んでいたアイスティーのグラスを置くと、ニッと笑いながら、ネイビーブルーのセーターの裾を摘まみ上げる。
隣のテーブルでは二人組の若い女性が向かい合って、恋バナに花を咲かせているようだ。

「結構です」

冷たくあしらうつもりが、思わずぷっと吹き出していた。
トオルもつられて笑う。

「ルイ達には悪いことしたね。次いつ会えるかわからないのに、慌ただしい別れ方になってしまって…」

「まぁ、そうですね。でもまたオフ会はしたいですし、きっと近いうちに再会できますよ。次はオレが幹事をしますね!」

トオルはニコニコ顔でそう言って、またアイスティーを啜った。

柔らかな空気を纏うその笑顔に、沈んでいたマヤの心は温かくなる。

ここに来る前、二人はファストファッションブランドの店に寄っていた。
トオルの応急処置を済ませた後、マヤが着替えを買いに行くことを提案したのだ。
アンダーシャツまでびしょ濡れになっていたので、真冬の今、このまま帰すわけにはいかなかった。

「大丈夫ですよ。そのうち乾きますって」

と、トオルは気にしていない様子だったが、マヤはルイ達のいる部屋に戻るとさっさと帰り支度を始めた。
帝王は先に帰ったようで、もうそこにはいなかった。
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