君はまだ甘い!
ルイが「何かあったのか?」と聞いてきたので、これまでのいきさつを大まかに話し、これから着替えを買いに行くことを伝えた。
ルイは驚いていたが、すぐに「分かった。気を付けてな!」と笑顔で送り出してくれた。
カラオケの代金を渡そうとしたが、

「歌ってるのほとんどオレらやし」

と、頑なに断るので、マヤたちはありがたくその厚意に甘えることにした。


ルイは、オンラインチャットでの印象通り、実際に会っても、気さくでコミュ力も高く、気遣いのできる好青年だった。
年上の彼女に尻を引かれているのでもなく、かと言って偉そうでもなく、とても安定した良い関係を築いているのが、今日わずか数時間を共にしただけのマヤにも感じられた。

キョロちゃん夫婦も、なかなか面白いコンビだったなーと思う。

「うん、ルイ達とは絶対また会いたいね」

「ルイはいい奴ですね。いや、しかし、まさかマックスさんに顔バレするとは思ってもみませんでした」

トオルは、ははっ、と恥ずかしそうに笑って俯いたかと思うと、突然、ハッと顔を上げた。

「そう言えば、帝王さん、マヤさんに告白してましたね!すごく積極的でビックリしましたよ!」

(いや、あれを積極的と捉えられるアナタに、ある意味ビックリよ?)

マヤはツッコみたいところを、とりあえずは耐えた。
すると、今度はふふっと思い出し笑いを浮かべたかと思うと、

「いや~~でも、あんな熱いコーヒーをぶっ掛けるなんて、マヤさんもやりますね~!」

形の良い垂れ目をまん丸くして、感心した様子を見せる。

(いや、かけられたの、アナタだよね?)

どうやらこの人は〈天然〉確定のようだ。

「大人の男って、あんな風に女性を口説くんですね!初めて生で見ました!」

あぁ、あれをお手本にするのだけはやめてほしい、とマヤはトオルの無邪気ぶりに本気で心配になる。

「トオルくんは…、その…、女性を口説いたことがあるの?」
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