君はまだ甘い!
「ちょっと!勉強の邪魔せんといて!」

ヒロキの腕を掴んで制止しようとするが、それを振り払ってヒロキはずかずかと奥へ進み、リビングの扉をノックもせず開いた。


ヒロキの肩越しからリビングの中を覗くと、トオルとユカがこちらを見ていた。
テレビにはゲームの画面が映っていたが、二人ともコントローラーは手にしていなかった。

ユカは二年ぶりに対面する父親を、少し強張った表情で見つめている。
トオルがさっと立ち上がり、

「こんばんは」

と頭を下げた。いつもの愛想の良い笑顔だ。

しかしヒロキはそれには返さず、

「あれ?お勉強中じゃなかったんですね?」

と、テレビ画面に視線を向けたまま、嫌味のように言う。

ユカは座ったまま俯いた。

マヤがヒロキの前に回り込んで、何か言おうとしたその時、

「ええ。僕は家庭教師じゃありませんから」

と、トオルがニコッと笑って答えた。


狭いアパートだ。玄関での会話くらい、ちょっと耳をすませば聞こえる。

「あれ、そうなんですか?聞いてたのとちゃうなぁ。ほんなら、どういう関係なん?」

ヒロキは苛立ちを含んだ口調で、マヤに視線を移し尋ねる。

トオルの真意が読めず、マヤはどう答えてよいかわからなかったが、とにかくこれ以上のゴタゴタは避けたかったので、

「ヒロキには関係ないから。もう帰って!」

必死に訴えたが、ヒロキはトオルと目を合わせたまま動かない。
ヒロキも身長は180近くあるので、狭いリビングに大男2人が立っていると、かなり圧迫感がある。

「まさか、こんな若い男がマヤの恋人ってわけはないよな…。やとしたら、こんな時間に女だけの家に男が上がりこむってのは、ちょっと常識に欠けると思うんですが…」


「だから、ヒロキには関係ないって・・・」とマヤが抗議しかけた時、トオルがそれを遮った。
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