君はまだ甘い!
「僕、マヤさんとお付き合いしています。つまり、恋人です」

にこやかに、且つ、きっぱりと、トオルはヒロキを真っすぐに見据えて言い切った。


ヒロキは驚いた様子も見せず、嘲笑うように言う。

「冗談でしょ?お見受けしたところ、あなた20代ですよね?もしかしてホスト?」

「26歳ですよ。普通の会社員です。年齢は関係ないでしょう」

笑顔のままだが、淡々とした口調だ。

「そうなんか?」

ふいにヒロキがマヤに向き直って尋ねる。

トオルの意図はわからない。ただ、今「そうだ」と肯定することで、ヒロキをおとなしく帰すことはできる。

でも・・・。

ヒロキの申し出、つまり、ヨリを戻すことは、百パーセント無しなのか?
マヤ自身は、散々自分を裏切ったヒロキを再び受け入れることは不可能に近い。
しかし、ユカはどうだろう。
自分を捨てて他の女のところへ行った父親を、今は忌み嫌っていても、彼女にとってたった一人の父親だ。
それにマヤ以上に、女二人で暮らすことは心細く感じているに違いない。

ユカの方をちらっと見ると、不安そうな目でこちらを見ていた。

マヤはふーっと息を吐くと、トオルに向き直って言った。

「トオルくん、申し訳ないけど今日は帰ってもらえる?」


「え…?でも…」と、マヤの言葉が意外だといった表情で、何かを言おうとしたが、

「ごめんね」

とマヤが手を合わせて謝るしぐさをしたので、

「わかりました」

と言うと、リビングの隅に置いていたコートを拾い上げ、ヒロキに頭を下げ出て行った。
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