君はまだ甘い!
(私、今日一日もつのかな?)

初夏の陽光に照らされ美しく咲き誇る花々に魅了され、マヤはしばしの間、トオルの存在を忘れ、一人で移動していたことにふと気づいた。

子育てから離れて、純粋に自分自身が楽しめる行楽は随分久しぶりで、心が踊り、浮足立っていた。

慌てて振り返ると、マリーゴールドの前でしゃがんでいるトオルを見つけてホッとする。

その端正な横顔は、意外にも可愛らしい花と調和して、マヤが画家だったなら、すぐに1枚の傑作を生みだせたに違いない、と思う。
同時に、今自分はこの美しい青年と”仮”とは言え、デートをしているのだ、という現状を思い出し、急に落ち着かなくなった。

恐る恐る近づくと、写真を撮ろうと、トオルがスマホを取り出した。
どう見ても自分と不釣り合いの、この美青年と一枚の写真に収まるのはやはり抵抗がある。
彼が後々一人でこれを見る、と想像するだけで、恥ずかしくて耐えられそうにない。

断ろうか迷っていると、グイっと肩を引き寄せられ、あっという間にシャッター音が鳴った。
肩に触れられた部分から体が燃えて消滅するかと思った。

顔を真っ赤にしながら勢いよく離れて、「やっぱり消して!」とトオルのスマホを取り上げようとすると、へへっと笑いながら、おどけて逃げるふりをするトオルが、憎たらしくて可愛らしい。

ふわりとそよ風が吹き、散々歩いて汗ばんだ体を通り抜けると、その心地よさに表情が自然と緩む。

一通り花を観賞した後、敷地内のレストランで遅めのランチをとり、ルイとの約束の場所へ向かった。

植物園からさほど遠くない、指定されたカフェに、ルイは先に到着していた。
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