君はまだ甘い!
(やっぱりな…)

複雑な心境になりながらも、

『絶対いいところを見せられるよう、頑張りますね!』

と、意気込んでいたトオルを思い出し、自分も精一杯応援しようと、邪念を払い姿勢を正した。



マヤはバスケの試合を生で観るのは初めてだ。
テレビのスポーツニュースで時折目にする程度で、ルールも詳しくは知らない。

しかし、試合開始のブザーが鳴ると、すぐに目の前の空間に引き込まれた。

ゲームは序盤から点の取り合いになる白熱した展開になり、マヤはトオルの圧巻のプレイにくぎ付けになった。
観客席にも興奮が広がり、皆が熱狂し始めた。

選手たちは皆、明らかに素人レベルを越えた素晴らしいプレイを見せていたが、トオルはその中でも別格であった。

ポジションのこともよくわからなかったが、トオルは常に中心的な存在で、一番走り、一番ゴールを決めていた。
何度か披露されたダンクシュートは迫力満点で、これまでマヤが見てきた、のんびりおっとりとしたトオルとはまるで別人であった。

バスケというスポーツのスピード感、躍動感、そして選手たちの迫力満点のプレイに、マヤはすっかり魅了された。

試合はトオルのチームが勝利し、客席は歓喜の声と、両チームの選手たちの勇姿をたたえる拍手で埋め尽くされていた。

しばらくして観客たちが次々立ちあがって出ていくのを横目に、マヤは席に座ったまま、その興奮の余韻に浸っていた。


ふと、通路を挟んで隣に座っていた若い女性が立ち上がった様子に視線を奪われた。
長い黒髪に、モデルのようにスタイル抜群のその美女が、白いハイヒールで通路に一歩踏み出そうとしているところだった。

試合中は集中していたので気付かなかったが、胸元が大きく開いたピンクのシャーリングブラウスはおへそを出すデザインで、下は超ミニの白のタイトスカート、と人目を引くファッションだ。
実際、周囲の人々がちらちらと彼女を見ている。

しかし、その理由はその容姿だけではなかったようだ。
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