君はまだ甘い!
トオルは本名をそのまま表示していた。


「初めまして、トオルです。二十五歳会社員です。このゲームは最近始めたばかりなので、下手くそなんですよ。ホントにいいのかなぁ~、オレで」


ははっと、爽やかな笑い声に合わせて、画面上で”寅さん”をクルクル回転させた。

年齢が同じくらいのルイよりはやや低めの声、落ち着いた口調で、何処の訛りも感じられない自然な標準語だった。

すると、メンバーの一人で、自称四十代のニックネーム”帝王”が、

「若いね〜。ルイと同じくらいか。若い奴はなんやかんや言いながら、上手いからな。おれ、おっさんなんでお手柔らかにな!あ、オバサンもいるから。大阪のおばちゃんや!な、○○」

と、マヤのニックネームを呼ぶ。

”帝王”はルイと共にこのメンバーの常連で、マヤが入ると大抵いるので、自然と話す機会も増えた。
年が近いということもあり、最近はお互いにあけすけな物言いもするようになった。

しかし、、、二人だけならまだしも、若者たちの前でも構わずこのオッさん特有の軽口を叩くのには、辟易しているところでもある。

「いやいや、こちらこそ、お手柔らかにお願いします」

マヤが無視をしたことで流れた少し不穏な空気は、トオルの、これまた穏やかさに満ちた声で掻き消された。
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