君はまだ甘い!
「ちょ!あの子、月野澪だよね。グラドルの!」

「あ!そう言えば、深瀬くんと付き合ってたんでしょ?」

「大学の時だよね?別れたって聞いてたけど…違ったのかな?」

ひそひそと囁く声が背後から聞こえてきて、マヤは胸の奥に僅かな疼きを感じた。

(トオルと付き合ってた…?もしかして、例の元カノだろうか…)

その美女はそんな囁きは気にも留めない様子で、コツコツとヒールを鳴らしながら、観客席から出て行った。



事前に落ち合い場所と決めていた、玄関ホールの隅にあるベンチに腰かけ、マヤはユカと共にトオルを待っていた。
ホール内は、立ち話をしている観客やジャージ姿の選手らで賑わっている。


「トオルくん、めっちゃカッコよかったわ~~」

スポーツに全く関心の無かったユカが、興奮気味にスマホで撮った写真をマヤに見せてくる。
だが、マヤは先ほどの美女のことが頭から離れず、目の前に差し出される写真を見る余裕もない。

しばらくして、白いTシャツとジャージのズボンに身を包んだトオルが大きなカバンを持ってやってきた。

「お待たせしました!」

つい先ほどまで鬼気迫るプレイを連発していたとは思えない、穏やかな表情であった。
真っ先におめでとう、と言いたかったのに、喉の奥がつかえて言葉に詰まる。

すると、背後から、

「トオル!」

と言う、可愛らしい若い女性の声がした。

振り向くと、先ほどの美女、月野澪が近付いてくる。

その華やかな出立ちは、ホールの中でもひときわ眩しいオーラを放っていた。
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