君はまだ甘い!
「ミオ…」

ニコニコ微笑みながら目の前に現れた女性を見て、そう呟くトオルの顔が曇った。


「予選突破おめでとう!」

美しい顔が、30センチは上にあるトオルを見上げて言う。

「ありがとう」

トオルはその曇った表情のまま、素っ気なく答えた。

「悪いけど、今から出かけるから」

「ちょ!今日は観に行くって、その後話そうって、ラインで伝えたでしょ。わざわざ東京から来たんだよ!」

澪の笑顔が消え、トオルのTシャツの袖から伸びた逞しい腕を掴む。

長身で鍛え上げられた逞しい体型のトオルと、その美しい女性が並ぶと、ますます近寄りがたいオーラが放たれる。
まるで洒落た恋愛映画の一場面のようだ。

マヤの胸がまたチクリと痛んだ。

「もう話すことはないよ。何度も言ったよね?」

「トオルにはなくても私にはあるの。お願い!」

必死に訴える澪に、感情を動かされる様子もなく、トオルはマヤたちの方を向きながら言う。

「彼女たち、オレが招待して大阪から来てくれたんだ。これから食事に行くから。どうしてもと言うなら、今ここで聞く」

澪はマヤたちの方に視線を向けると、どう見ても目の前の美青年と接点の無さそうな、中年女性と女子中学生を怪訝そうな顔で見る。

マヤはいたたまれなくなって、

「あ、トオルくん、ユカと隣の公園に行ってるよ!ごゆっくり!」

そう言ってユカを促しながら、立ち去ろうとした。

「待ってください、マヤさん!」

トオルが澪を真っすぐ見据えたまま言う。

「彼女たちも一緒にここで聞く。それが条件」


澪は始め明らかに不服そうだったが、ふと意味深な表情に変わった。

「わかったわ。トオルがそれでいいなら」

トオルは一瞬訝しんだようだったが、手短かにね、とだけ言った。
< 61 / 82 >

この作品をシェア

pagetop