君はまだ甘い!
やっぱり、もうイケメンや美人に振り回されたくない。
これからは恋愛などで心を乱されることなく、穏やかに暮らしたい。

トオルのルックスに魅了されたことは否めないが、それよりも…

純粋で、自分の感情を素直に表現できる、それでいて、細やかな気遣いも自然にできるトオルにいつの間にか惹かれていた。
真っすぐにこちらを見つめるその瞳は、母性すら漂わせる優しい色を滲ませ、マヤの卑屈になった心をも解きほぐしてくれる。
そんなトオルが愛おしいと思い始めていた。

そして、その彼がなぜか、自分を好きだと言う。
だけど、その心地よさに寄りかかり、いずれまた来るであろう、〈奪われる恐怖〉に支配され生きていくつもりはない。
トオルには悪いが、ここですっきり終わりにしよう、と。

子供が不貞腐れたような言い方しかできない自分を情けなく思いつつも、一気にまくし立てた、のだが。

『ふふふ。マヤさん、ほんとにやきもち焼いてくれてるんですね!』

返ってきたのはトオルのほくそ笑む声だった。

「え?」

『ルイから聞きました。すごく嬉しいです!』

「な、…!」

『あの時、マヤさんの気を悪くさせちゃって、電話も出てくれなくなったし。オレ、もうフラれたかなって、あきらめかけてたんですよ』

トオルはいかにもしょんぼりしたような口調を装う。しかし、

『でも、それもこれも、焼きもちからだったんだってルイから聞いて、もう嬉しくって!それって脈ありってことでしょ!?』

次の瞬間にはもう、元のうららかな声音に戻っていた。
マヤの子供じみた拒否表明は、彼にはノーダメージだったようだ。

(あぁ、こういう人だった…)

それでも、そう簡単に折れたくない自分がいる。

「あれから、マンションに行ったんでしょ、彼女と」

『あーあれ…』

何ともない、といった明るい声のままトオルは続ける。

『マヤさんが帰った後、きちんと話を付けようと思ったんですけど、彼女芸能人だから、喫茶店とかは無理でしょ。仕方なく、うちに呼んだんです。でも、もちろん、マヤさんが気にするようなことは何もないですよ』

のほほんとした口調が気に入らない。

「き、気にしてなんか・・・!」

『マヤさん、来月から本戦が始まるんです。会場は関東なので見に来てくれとは言えないですが、応援しててくださいね!』
< 67 / 82 >

この作品をシェア

pagetop