君はまだ甘い!
ふわっと背中から体を包まれ、温かい体温が全身を覆った。

「ごめん」

耳元にかかる息に、思わず目を伏せる。

(何でそんなすぐに折れてくれるの?)
(そりゃ、帝王の味方なんてする、君が悪いよ?)
(私は君より大人だから、ちゃんと結婚ってものを、人生ってものを、若く未熟な君が失敗しないように教えてあげてるのに・・・)

胸元を覆う逞しい腕に、ぽたぽたと涙が落ちた。

(未熟なのは自分か…)

「ご…めん…」

素直になるための、最後の抵抗を振りほどいて発したその言葉は、それでも今にも消え入りそうで、もう一度言い直そうと、勇気を出して振り向いた時だった。

ふわっと体が浮いて、視界が傾いた。

(お姫様抱っこ?!)

20年前だったら頬を赤らめ、その胸に顔を埋めていたかもしれない。

「ちょっと!怖いって!」

最近、幸せ太りなのか、体重が絶賛増量中、だ。
脇を抱え込むその腕をぺしぺしと叩く。
ずんずん廊下を逆戻りして進むトオルが、途中で力尽きる恐怖感に襲われる。

しかし、アスリートにそんな心配は無用だった。

あっという間に、リビングを通り過ぎ、奥の部屋に辿り着いた。
そっと大きなベッドに横たえられたかと思うと、トオルもベッドに乗りあげる。
上から見下ろされ、心臓がざわつく。

「子供作る気?」

お姫様抱っこの余韻に似つかわしくないセリフを吐いていた。
ふふっと笑みをこぼしたトオルは、マヤの前髪に手を伸ばし、おでこにチュッとキスを落としてから、その耳元に顔を寄せ、囁いた。

「どっちが甘いか教えてあげる」



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