君の熱で甘く、溶ける。


「ーーーん?」


やってくるだろう衝撃がいくら待ってもこない。
痛覚をなくしたのか、はたまたもう天国なのか。


思ってもない感覚にゆっくりと目を開くと、さっきまで近くに迫っていたはずの石畳は遠くて。


それに、どこか温かい。



「…こら、あんまり急ぐと怪我するよ」


近くで聞こえるのは低くて落ち着く声。がっしりとした両腕が私を衝撃から守るように囲んでいて。



ーー逢坂くんに、抱きとめられた。
 

そう分かるまで時間はあまりかからなかった。だって耳元で急ぐ私をたしなめるような声が流れ込んできたのは息がかかる距離だったから。



「……ご、ごめん。ありがとう」



ばっと体を離して、体制を直すのは文字通り一瞬。


後ろからついてきていた1年生も大丈夫ですかと声をかけてくれたけどそれはすべて右から左で誰がどんな言葉をかけてくれたかすら覚えてない。



ーーだって、胸の音がどくんどくんとうるさかったから。

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