百物語。
プロローグ
もう随分と昔のことのような気がする。
その日は雲ひとつ見当たらぬ晴天で、だからか真夜中になれば墨を零したかのような暗闇に包まれた世界になっていたことを今でも鮮明に覚えている。これからすることを思えば、濁り空の方が良かったと思った。
そうは言っても、どこか不気味な雰囲気が出ているように思うのは、何も音が聞こえないからだろうか。
「そろそろ始めよう」
大きくもない声量だったのにやけに響いたその声は、闇に溶けるようにして私の耳に届いた。
少年は、先ほどまで煌々とまではいかないが、ある程度教室を照らしていた電気をなるべく音を鳴らさないように切った。
今まで見えていた数人の少年少女達が唐突に見えなくなる。―――-深夜に学校にいたのは、間違えようのない子供達であった。
クラスメイト全員、というわけではないが、その大半はここに来ていた。
ぞくりと背に走るは悪寒。それは好奇心にも近い悪寒だった。