百物語。
チャイムを鳴らせば、家の中で音がしている感覚がする。だが人がいる気配はしない。全くと言っていいほどだ。

「…」

そしてやはり、そこから人が現れることはなかった。

「…、…すいません！」

でもそこで諦めたら駄目だと、心の中で警鐘が鳴っていた。

私は叫んで、ドンと扉を叩く。一回だけではなく、何度も何度も叩き続ける。

「すいません！向居の菊井ですが！すいません！」

手が痛くなるのも構わず、焦った心を隠すように叫んでは叩いて、叫んでは叩いてを繰り返した。いないということはすぐに分かり、私は舌打ちを堪えて次の家へと走った。

その家でもまた同じことを繰り返す。でもやっぱり中に人がいる気配はしないし出てくることもない。

「向居の菊井です！いらっしゃいますか！すいません！！」

ここにもいない、そこにもいない。

数件繰り返したところで、私はだらりと腕を下げた。

「………」

意味が分からないまま、私は黙り込んで呆けながらその場に立ち竦んでしまった。
　
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