百物語。
一面に広がる真っ白な銀世界。

「………」

唖然とした。

見覚えのある景色だった。11月や12月になれば嫌にでも目に入る景色。―――その景色は、私の知る“冬”の景色そのものだった。

「………………ゆき…?」

目の前の事実が飲み込めなくて、その白さの理由を本能的に呟いて、空を見上げる。上からはちらちらと雪が舞っていた。

「……どうして…?」

どうして。雪?しかも、朝見たときは明らかに晴天で、雪の降るような空ではなくて。部屋に差し込む光は夏のものだった。

真夏に雪?しかも、いつの間にこんなに積もったというのか。

呆然と、その光景を食いつくように見る。いや、目を離せなかったと言ったほうが語弊が出ないであろう。

今日は全国的に暑い真夏日になりそうです。

天気予報は、正しいはずの言葉を繰り返す。暦は夏。しかし外は雪。吹雪いてはいない。ただ当然のように雪が舞い、積もっていく。

「…お、…」

その事実を認めると、私はトイレに走った。

「お母さん!お父さん!?そ、外!!雪降ってるよ!?ねえ!!」

トイレにいるはずの2人を呼び、気が動転したままその扉を開いた。鍵がかかっているのは当たり前のことだったのに、そこに鍵がかかることはなく、豪快に開く音だけが響いた。

「…」

見慣れたトイレ。そこにいないのは父と母。

「……お父さん?…お母さん」

どこに行ったのだろうか。慌てたままの頭では上手く考えることが出来ない。一拍置いて、もしかするともう外に出て車に乗っているのかもしれない、という考えが頭に巡った。
 
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