きみのためならヴァンパイア
水瀬が言葉に出さないその続きを、私は知っている。
水瀬は自分が痛いのは嫌だけど、『傷つけるのは好き』だと知っている。
……ため息なんて、白々しい。
爛々とした目の輝きは、紫月と戦うことを心待ちにしていたという証拠に違いないのに。
紫月は水瀬の言葉を聞いて、呆れたように笑った。
「お前は、まわりのもの全部自分の駒とでも思ってんのか?」
「……あぁ、うん、そうかもね? どうも、他人のことを自分と同等って思えなくてさ」
「随分むなしい人生おくってるんだな」
「そう? 君とどう違うのかな。ヴァンパイアの王様はもう何年もひとりぼっちって聞いてるよ」
水瀬は人の嫌がることを言うのが本当にうまい。
口をつぐんだ紫月に、水瀬は嘲笑まじりで言った。
「ーーさて。もう僕ばっかり話すのも飽きたし、そろそろ始めようか?」
水瀬がそう言った瞬間、紫月が先に動いた。
紫月は咄嗟に傘を掴むと、水瀬がいるリビングへ突撃する。
しかし水瀬は迫る傘の先をひらりとかわし、一直線に私の方へと踏み込んだ。
「陽奈っ!」
逃げなきゃーー私がそう思うと同時に、紫月が叫ぶ。
しかし、水瀬の狙いは私じゃなかった。