きみのためならヴァンパイア



水瀬が言葉に出さないその続きを、私は知っている。

水瀬は自分が痛いのは嫌だけど、『傷つけるのは好き』だと知っている。

……ため息なんて、白々しい。

爛々(らんらん)とした目の輝きは、紫月と戦うことを心待ちにしていたという証拠に違いないのに。


紫月は水瀬の言葉を聞いて、呆れたように笑った。


「お前は、まわりのもの全部自分の駒とでも思ってんのか?」

「……あぁ、うん、そうかもね? どうも、他人のことを自分と同等って思えなくてさ」

「随分むなしい人生おくってるんだな」

「そう? 君とどう違うのかな。ヴァンパイアの王様はもう何年もひとりぼっちって聞いてるよ」


水瀬は人の嫌がることを言うのが本当にうまい。

口をつぐんだ紫月に、水瀬は嘲笑まじりで言った。


「ーーさて。もう僕ばっかり話すのも飽きたし、そろそろ始めようか?」


水瀬がそう言った瞬間、紫月が先に動いた。

紫月は咄嗟に傘を掴むと、水瀬がいるリビングへ突撃する。

しかし水瀬は迫る傘の先をひらりとかわし、一直線に私の方へと踏み込んだ。


「陽奈っ!」


逃げなきゃーー私がそう思うと同時に、紫月が叫ぶ。

しかし、水瀬の狙いは私じゃなかった。


< 139 / 174 >

この作品をシェア

pagetop