きみのためならヴァンパイア
「そこを、どいて」
手も、声も、情けなく震えてしまう。
きっと私のことを見透かしているであろう水瀬は微笑んで、紫月の肩から足を下ろした。
紫月は肩を押さえて、苦しそうに呼吸を整える。
きっと平気なふりをしていただけで、本当はもう限界なんだ。
「それ、陸のかな。陽奈ちゃん、使い方わかるの?」
「当たり前でしょ、暁家の娘なんだから。嫌でも訓練させられてきたの」
……嘘をついた。ピストルの訓練をしたのなんて、何年前か覚えていない。
けれど、使い方くらいはわかる。
安全装置を解除して、引き金を引けばいいだけだ。
「あぁ、そう? 撃ちたいなら撃ちなよ。ちゃんと僕を狙うんだよ。間宵君に当たったらかわいそうでしょ」
……そう、使い方がわかっても、当てられなければ意味がない。
私には、水瀬に当てる覚悟も、そもそも人を撃つという覚悟も、まだ生まれてはいなかった。
「……私が、おとなしく帰るって言えば、紫月のことは見逃してくれる?」
水瀬は言っていたはずだ。
私が水瀬を選べば、暁家に婿入りできるというメリットがあると。
「ーーははっ、そうだねぇ……」