きみのためならヴァンパイア



水瀬が私を見た瞬間、隙をうかがっていた様子だった紫月が水瀬に蹴りを入れる。

しかし、水瀬に腕で止められてしまった。


「結論から言うと、無理な相談だよ」


よろけながらも戦おうとする紫月に応戦しながら、水瀬は悠長に話を続ける。

紫月の分が悪いのは誰が見たってわかるだろう。


「そもそも僕が暁家に取り入りたいのって、銀の弾丸を好きなだけ使いたかったからなんだけどさ……あ、陽奈ちゃん知ってた? 君の家でしか作ってないんだよ。銀の弾丸」


……そんなの、知らなかった。

思い返せば、うちには立ち入り禁止の地下室がある。


「知らないって顔だね。まぁ、君、お父さんに信用されてなかったもんね。とにかくそういうわけだったんだけど……今の状況、見てよ」


そう言った水瀬の頬を、ナイフがかすめた。

紫月が、自分の足に刺さっていたナイフを投げたみたいだ。

水瀬はまた懐から似たようなナイフを取り出し、紫月に投げ返す。

もう避ける気力もないのか、紫月は手のひらで受け止めた。


「もうちょっとで、ヴァンパイアの王様の血が手に入りそうなんだ。ヴァンパイアを人間に変えてしまうより、思い通りに動かせた方が何かといいと思わない?」


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