きみのためならヴァンパイア
そうだ、私は何もできない。
家族からただ逃げて、それでも水瀬からは逃げられなくて、紫月に助けられてばっかりだった。
未だに、やりたいこともはっきりしなくて、覚悟もない。
ーーでも、それじゃダメなんだ。
そんな自分を受け入れて、仕方ないなんて思っちゃダメだ。
私にはやるべきことがあるはずだ。
やりたいことだってあるはずだ。
私が悩んでいた間にも水瀬は紫月を組み伏せて、今にもナイフを突き立てようとしている。
ーー刹那、集中する。
私は、紫月を助けたい。紫月を水瀬から守りたい。
今、ここで、私にしかできないことがある。
一呼吸して、思い出す。
嫌だった、ピストルの訓練。嫌だった、父親の教え。
的を人だと思わないこと、反動にそなえてピストルをしっかり握ること。
狙いを定める。
中心を狙えば、多少ずれてもどこかに当たる。
水瀬に向けた銃口は、もう震えていなかった。
水瀬がナイフを振り上げる、その瞬間に隙が見えた。
私は引き金を引いた。
銃声が響く。
くゆる硝煙の向こうで、水瀬が小さく笑った。