きみのためならヴァンパイア
「家を捨てるばかりでは飽き足らず、家族の邪魔までするつもりか?」
「私はっ……私は、自分で決めたいだけだよ! どうやって生きるかも、誰と一緒に生きるかも……それなのにどうしてお父さんはーー」
言いかけて、ふと思い出した。
父親にかけた、淡い期待を。
「……お父さん、私が稀血って、知ってた……?」
私が稀血だから、私を心配して、対ヴァンパイア用の訓練をしてくれたのかもしれない。
あれだけハンターになれとうるさかったのは、私のためを思ってのことだったのかもしれない。
父親は厳格な性格が表れた顔を眉ひとつ動かさないまま、ゆっくりと口を開く。
「……何の話だ」
父親へ抱いたわずかな希望が、打ち砕かれた。
「知るわけがないだろう、ヴァンパイアの物差しなんて」
父親は私と紫月を交互に見て、納得したようにうなずく。
「ヴァンパイアの王がどういうつもりでうちの出来損ないをと思ったがーーなるほど、そういうことだったのか」
「違うっ! 紫月はーー」
「……陽奈、やめとけ。何言っても無駄だろ」
紫月が言ったことは、誰よりも私が理解している。
父親に何を言ったって、聞いてもらえた試しがない。
けれど、それでも反論したくなるほど、紫月を悪く思われたことが嫌だった。