きみのためならヴァンパイア
紫月は私の手を取って、指先を添える。
そして、私に無理やりピストルを握らせた。
「ーー待ってよ、紫月、どういうつもり……」
「……俺は、お前に生きててほしい」
紫月は自らの胸に銃口を押しつけて、場に不似合いなやさしい笑みを浮かべる。
「撃てよ、陽奈」
「そんなのっ、……できないよ……」
「俺の言うこと聞くんだろ?」
そんなの、どんなにお願いされたって、きくわけにいかない。
どうしてそんなこと言うの。
うまく力が入らなくて、その代わりとでもいうような涙が止めどなくあふれてくる。
「……ここで一度、終わりにしよう。俺たちの関係」
紫月は震える私の指先を、引き金に乗せる。
「やだ……っ、やだよ!」
「大丈夫。俺は陽奈のことを忘れたりしない」
そんなことを言ったって。
いくら忘れたくなくたって。
そんな思いだけでどうにかできるほど、世界は優しくできていない。
「……じゃあな、負けんなよ」
紫月が指先に込めた力が、私の指を伝って引き金を引こうとする。
「紫月、やだ、やめて……っ」
やがて引き金は完全に引かれーー
「紫月ぃーーっ!」
ーー私の叫びと銃声が、共鳴した。