きみのためならヴァンパイア



シャワーはあたたかくて、気持ちよかった。

夏とはいえ、しばらく濡れた服を着たままだったせいか、気づかない間に体は冷えていたようだ。


並ぶのは知らない銘柄のシャンプーやボディソープ。

それを見て、私は本当に家を出たんだな、なんてことを実感する。

まあ、知らない男――もといヴァンパイアの王様の家に転がり込むことになってしまったのは予想外過ぎるけど。


家を出てからそんなに時間も経っていないはずなのに、なんだかすごく色々なことがあった。

もし間宵紫月に助けてもらわなかったら、私、ヴァンパイア男に襲われた時点でもうダメになってたかもしれないし。


……そういえば彼がヴァンパイア男を撃退したときのこと、どうやったのか聞きたいな。

それに、そもそもどうして私を助けてくれたんだろう。

ヴァンパイアの王っていうなら、ヴァンパイアの味方じゃないのかな?


いや、でも、私のことを『うまそう』なんて言ってたし、もしかしたら獲物をひとりじめしたいだけかもしれない。

けど、言うこと聞けとか召し使いとか、一体私に何をさせたいんだろう。


いくら考えたって、ヴァンパイアの王の思考なんてわかるはずもない。

なんだか頭痛がしてきたところで、私は考えることをやめた。


――もしかしたらこれが、最後のシャワーかもしれないし。

私がこれからどうなるかは間宵紫月次第だ。

彼のところに戻った瞬間、私は食べられちゃうかもしれない。


そう思うと、石鹸のやさしい香りとシャワーのお湯のあたたかさが、ひどく尊いものに感じた。


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