きみのためならヴァンパイア
エピローグ
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ーー新居に越して数日、生活が落ち着きはじめた頃。
マスターに最後の挨拶をしたときに餞別としていただいた豆を挽いて、コーヒーを淹れる。
私は砂糖とミルクたっぷり。
いつもより多め。できるだけたくさん入れたい。
紫月は相変わらずブラックーーと思いきや、ほんの少し砂糖を入れるようになった。
私が押し付けるお菓子を嫌々ながら食べているうちに、甘いもののおいしさに気づいたようだ。
「……なに、笑ってんの」
「ふふっ、べつに」
そんな紫月のこと、知っているのは私だけ。
なんだか少しだけうれしくて、思わず笑みがこぼれる。
……なんて、穏やかに過ごしてはいるが。
内心では、焦燥感が渦巻いている。
ーー引っ越してきた夜のこと。
私は紫月に、ヴァンパイアになったことを打ち明けた。
それから、暁家で銀の弾丸の製法を消し去ったことも。
私はこれからヴァンパイアとハンターとの争いをどう収めていくかを考えなければいけない。
だから、紫月の血液入りカプセルの使い道を相談したかったーーそれなのに。
そこで私が知らされたのは、驚愕の事実だった。
「……お前、ヴァンパイアどころか、その王様になったんじゃね」