きみのためならヴァンパイア



「どうした、浮かない顔して」

「いや、なんでもーーんっ!?」


言いかけた私の口に、紫月がクッキーを突っ込んだ。

吐き出すわけにもいかないから咀嚼(そしゃく)すると、すごくおいしい。


「なにこれ、おいしい!」

「近所で見つけたケーキ屋の」


……紫月が、ケーキ屋さんでクッキーを選んで買ってきてくれたの?

想像するとなんだかかわいくて愛しくて、思わず笑ってしまう。


「また笑ったな? なんなんだお前は」

「いやだって、幸せだなって思って」

「……そうだろ、だったら思い詰めた顔すんな」


幸せを感じるほど、それまでにあった嫌なことや、これから起こるかもしれない悪いことに思いを馳せてしまう。

ヴァンパイアやハンターのことをずっと考えていても仕方ない、と気分転換しようと思えば、自分が過ごしている部屋を見てまた別のことを思います。


「……紫月、前の家、めちゃくちゃにしてごめんね」

「……なんの話だよ、いきなり」

「ガラス割れちゃったし、部屋の中もぐちゃぐちゃだし……」


あの家はきっと、数年前は紫月とその家族がみんなで住んでいたのだと思う。

一人で住むには少し広くて、ところどころに紫月以外の誰かの名残を感じた。

ーーそれなのに私のせいで、思い出の家が汚れてしまった。


「陽奈が謝ることじゃないだろ。……それに、いいんだよ、別に」


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