きみのためならヴァンパイア



「た、食べないでってば!」

「だから、ヴァンパイアは人間を食うんじゃなくて、血を吸うだけだっての」

「どっちも変わらないよ! だって、血を吸って、人間を吸血依存症にするんでしょ!?」


――吸血依存症。

それこそが、人がヴァンパイアを恐れ、ハンターがヴァンパイアを狩る理由だ。


ヴァンパイアに血を吸われた者は吸血依存症になる。

そうなれば、人は自らヴァンパイアに吸血されることを求めて、正気を失ってしまうらしい。


そんなの、食われて死ぬのと変わらないと思う。

だから絶対にお断りだ。


「そのとおり。よくご存知で」

「だから、離して!」


私は間宵紫月を押しのけて無理やり上半身を起こす。

彼はそれを許したのか、私のスペースを空けてソファに座り直した。


「けどな、全員が全員、そうなるわけじゃねぇよ」

「……え? そうなの?」

「人間が吸血依存症なんてのになるのは、血を吸ったヴァンパイアがよっぽど下手くそか、わざと(・・・)やってるからだ」


……知らなかった。

ハンター一族としての教育を受ける中で、そんなの聞いたことがない。

いくら私が真面目に話を聞いていなかったとはいえ、ヴァンパイアに関してまったく知らない事実があるなんて。


「お前を襲ってた奴は、後者だろうな。わざとやってやろうってのが透けて見えてた」

「なんでわざわざ、そんなこと……」

「嫌がらせとか、単に面白がってるだけとか、理由なんていくらでもあるさ。――人が憎くて仕方ない、とか」


間宵紫月の真剣な声色に、恐怖を覚えた。


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