きみのためならヴァンパイア



一瞬、言ってる意味がわからなかった。

けれど彼の視線が私の首筋に向いているのに気づいて、言葉の意味を理解する。


「……私、ごはんじゃないからね?」

「それじゃデザートにしてやるよ」


すぐに否定の言葉が出てこない自分は、どうかしてしまったのかもしれない。

スープをお皿に注ぎながら、さっき血を吸われたときのことを思い出す。


……嫌じゃなかった。

吸血依存症になってしまう人の気持ちがわかってしまいそうだ。


けど、私は絶対そうなったりしない。

決意を胸に抱きながら、料理をテーブルに並べた。





「それじゃ、いただきます」

「……いただきます」


あ、ちゃんと手を合わせるんだ。

ヴァンパイアの王様も、意外とかわいところがある。

なんて思いながら、つい見つめていると。


「なんだよ」


睨まれちゃった。


「な、なんでもない」

「そーかよ」


慌てて手を動かしながら、料理を口に運ぶ。

我ながら、有り合わせにしてはいい出来だと思う。

間宵紫月も、特に文句も言わずに食べてくれている。

なんだかはじめて彼の役に立てた気がして、ちょっとうれしい。


「……あ、あのさ!」

「ん?」

「私、ここにいてもいいの?」

「拾ってやるって言っただろ」

「そうだけど……迷惑じゃない?」


私にできることなんて、本当に料理くらいしかない。

それか、血を吸われるくらいだ。

私がここにいることで、間宵紫月にとってどれほどのメリットがあるのだろう。


「くだらねー心配すんな。俺の意志で拾ったんだよ」

「そ、そっか……ありがと」


本当にここでしばらく過ごしていいのなら、聞いておきたいことがある。


「……好きな食べ物とか、ある? あ、血はナシね!」

「肉」


なるほどね。

血に近いほどいいってこと?


「それじゃ、嫌いなものは?」

「……ヴァンパイアハンター」


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