きみのためならヴァンパイア
それを聞いた瞬間、冷や汗が滲んだ。
間宵紫月は私の言葉を待つように、私の瞳を見つめている。
「そっ、そ、そうじゃなくてっ! 食べ物の話だってば」
「ああ、そうだったな。野菜」
冷や汗が止まらない。
間宵紫月はヴァンパイア、それも王様なんだから、ヴァンパイアハンターが嫌いだなんて、当然のことだ。
それなのに、私はなんで動揺してるんだろう。
――絶対、バレたくない。
私の一族が、みんなヴァンパイアハンターだって。
「お前さ」
「えっ!?」
つい声が裏返ってしまった。
内心、まださっきの動揺が続いている。
「家出って言ってたけど、仲悪いの」
彼は視線を料理に落としながら、ぽつりと呟くように私に問いかけた。
このタイミングで家族の話なんて、冷静を装うのが難しい。
「あっ、ああ、うん、そうだよ。すっごく仲悪い!」
「へぇ」
本当は、私と家族の関係は仲が悪いなんて言葉で表せるものじゃない。
でも彼の、興味があるのかないのかわからない相づちに、長々と説明した方がいいとは思わなかった。
ボロが出て、ハンターのことがバレるのも怖いし。
そういえば、間宮紫月は家族なんていないって言ってたっけ。
この家は一人で住むには少し広い。
……彼は、いつから一人でいるのだろうか。
私も、いつもひとりぼっちみたいな気分だった。
家族は誰も私の話も意見も聞かないし、ハンターになれと一方的に押しつけるばかり。
けれど、嫌いな人でも一緒にいるのと、誰もいない本当の一人とでは、どっちが孤独なんだろう。
「……家を出て、よかったと思うか?」
彼は私を試すように、おもむろに口を開いた。