きみのためならヴァンパイア
銀の弾丸
◆
目が覚めて、一瞬、ここはどこだろうと思った。
ああ、私、家出したんだった。
昨日までは、知らなかったベッド。
……間宵紫月の、ベッド。
わきあがってきた恥ずかしさを吹き飛ばすように、カーテンを勢いよく開けた。
もうとっくに日が昇っていたようだ。
どれだけ眠っていたのだろう。
あんなにだるかった体も、すっかり癒えている。
換気しようと窓を開けて――すぐに、自分の間抜けさを思い知る。
「よう人間、歓迎してくれるのか?」
そう言いながら部屋に飛び込んできたのは、知らない男。
薄く笑う口には牙が覗いている。
――ヴァンパイアだ。
けど、なんでこんなところに?
確かにここはヴァンパイア居住区だけど、まさか日光を嫌うヴァンパイアが、こんな快晴の元をうろついているなんて。
「ふっ、ふほうしんにゅ……」
とっさに間宵紫月の名も呼べず、男に体を押さえつけられてしまう。
「黙りな、一口でいいんだ。味見だけさせてくれよ」
男に手のひらで口を覆われて、声を出せない。
お願い、気づいて、助けて――!
そう、祈ったとき。
「ふざけんな、泥棒」
いつの間にかドアを開けて、間宵紫月が立っていた。