きみのためならヴァンパイア
不法侵入男がその存在を観測しきる前に、間宵紫月は男を蹴り飛ばす。
私から離れて転がった男が顔を上げて何か言おうとしたとき、間宵紫月はまるで叩き込むように手のひらを男の口に当てた。
間宵紫月が男の喉元を確認しているのを見て、また何かを飲ませたんだとわかった。
きっと、倉庫のときのヴァンパイア男と同じだ。
「……今後、一生こいつに触るなよ」
低い声は、冷静だけど威圧感たっぷり。
ひどく焦ったような様子の男は、こくこくとうなずく。
間宵紫月が手を離すと、男は窓から慌てて出ていった。
「ねえ! さっきの何――」
間宵紫月が近づいてきて、私の頭を小突く。
「何、じゃねぇよ。お前こそ何なんだ。ヴァンパイアにとって自分は極上のエサなの、自覚しろ!」
「ご、ごめんなさい……」
彼の怒りは当然だ。
何も考えずに窓を開けたりした私が悪い。
「ただでさえこんなところにいる奴は人の血に飢えてるってのに……」
ヴァンパイア居住区にいるヴァンパイアは、ハンター嫌いが故に人間社会に馴染めず、つまり人との接触が少ない、はず。
飢えている、というのも納得だ。
「本当に、ごめん……」
「……もうやるなよ」
「うん……それで、さっきの! どうやったの? 何したの!?」
「お前、本当に反省してる?」
してるけど、初めて会ったときからずっと気になってるんだから仕方ない。
あんなヴァンパイアの撃退方法、知りたいに決まってる。