きみのためならヴァンパイア
「だって、なんか飲ませればいいんでしょ?」
「……よく見てんな」
そう言うと間宵紫月がポケットから取り出したのは、よくあるカプセル薬だった。
カプセルの中には、限りなく黒に近い赤色の液体が入っているようだ。
「なにこれ、薬?」
「俺の血」
「えっ……あなたの?」
「王族の血を取り込んだヴァンパイアは、王族に逆らえなくなる。つまりこのカプセルさえ飲ませれば、なんでも言うことを聞かせることができる」
……王様の血、すごすぎ。あと怖すぎ。
「そのカプセル、いつも持ち歩いてるの?」
さっき、間宵紫月は部屋着であるにも関わらず、カプセルを出した。
答えによっては、彼がとんでもない悪人にも思えてくる。
いつでもなんでも、思い通りにしたい、とか。
「……昨日の質問の答え、訂正させてもらうけど。俺がヴァンパイアハンターよりも嫌いなのは、わざと吸血依存症にさせたり、みっともなく人間を襲う同族。そういうバカ共がいるから、持ち歩いてんの」
……心の中で、こっそり謝った。
そんな真っ当な理由だなんて。
なんだか間宵紫月って、実はめちゃめちゃいい人なんじゃない?
「なるほど……あと、さっきは、ありがとう」
「じゃ、吸っていい?」
聞いたくせに返事も待たずに、私の首筋に噛みついた。
すごくいい人だとしても、その半ば強引な行為だけはあんまり褒められたものではないと思う。
けど、何も言い返せず抵抗すらしない私だって、我ながらちょっと、どうかしている。