きみのためならヴァンパイア




間宵紫月から解放されてリビングに向かうと、昨日はなかった洗濯物が窓際に干されていた。

一人暮らしは大変だよね、なんて思いながら何気なく眺める。


そこに、私が昨日着ていた制服。

それから、下着。


「わーっ!」

「うるせぇな」

「下着っ! なっ、なんで!」

「そりゃ、洗ったら干すだろ」


そうだった、私が洗濯機に入れたんだ。

まさか間宵紫月が干してくれるなんて考えていなかった。


「見ないで!」

「はっ、今さら」


私が慌てて下着を回収して隠す場所を探す間に、彼は着替えてきたようだった。

バケットハット、サングラス、マスクにコートを身にまとう彼は、まるでマスコミ避けの芸能人だ。


「じゃ、出かける」

「えっ!? 待って! 置いてくの!?」


家に一人なんて、心細い。


「さびしがりか?」

「だって、また他のヴァンパイアが来るかも!」

「来るかもって、家の中にまで――」


ついさっき、来たばっかりなんですけど!

間宵紫月もそれに気づいたのか、少し考える素振りを見せる。


「……もしかしたら昨日、お前がこの家に入るところを見られたのかもな」

「それならやっぱり危ないよね? 行かないでよ!」


ワガママを言っているのはわかってるけど、怖いものは怖い。


「行かないでって……何も買ってこなくていいのかよ」

「え?」

「この家には、お前の服も食べ物もないんだけど」


……もしかして、私のために買い物してくれようとしてたの?


「そっ、それじゃ、私も一緒に行く! だってほら、私が何食べるかとか、わかんないでしょ?」

「お前は出かけるための服がないだろ」


確かに、制服はまだ乾いていない。

なんなら靴も。あとなにより下着も! 


「でも、下着だって欲しいし……」


それを言うと、間宵紫月は黙った。

数秒の後、口を開く。


「……仕方ねぇから連れてってやるよ。せめてもう少し、まともなもんに着替えろよ」

「ありがとっ!」


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