きみのためならヴァンパイア
ヴァンパイア
◆
――あれからずっと、樹莉ちゃんの言葉が、心にトゲのように刺さって抜けない。
今、紫月と暮らす日々は、楽しいと思う。
でも、ふいに無力感に襲われる。
私はあの日、銀の弾丸がヴァンパイアの記憶を消してしまうことを知った。
それから、ヴァンパイアハンターがやっていることは正しいとは思えなくなった。
……それを、家族に伝えなくてもいいのかな。
私は家を出て、家族と向き合うことから逃げた。
それで今は成り行きで、前よりもずっと幸せな暮らしを手に入れた。
……でも、本当に私、それでいい?
せっかくヴァンパイアのことを知ったのに。
せっかくハンターの一族に産まれたのに。
なんにもしないのって、なんか――
「……かっこわるい……」
「は?」
思わず漏れた心の声が、紫月に聞こえてしまったようだ。
「急にケンカ売ってる?」
「ち、ちがっ――紫月のことじゃなくて!」
彼は店の掃除をしていた手を止めて、私に迫ってきた。
「じゃ、何の話だよ。お前が最近なんか悩んでることか?」
「いや、別に……」
「嘘だな。前にハンターを見かけたときから、ずっとおかしい」
さすが、私のことなんてお見通しだ。
「……だって私、ハンターがそんなひどいことしてるなんて――」
私が言いかけたときだった。