きみのためならヴァンパイア
突然、紫月がふらついて、テーブルにもたれる。
「えっ、大丈夫!?」
「……ちょっと、立ちくらみしただけ――」
言い終わらないうちに、紫月はずるずると床に崩れ落ちる。
「ちょ、ちょっと! どうしたの!」
私の声が聞こえたのか、マスターが裏から来てくれた。
「紫月君! 顔色が悪いね、こっちに座れる?」
「……大丈夫っす、少し休めば……」
「もちろんここで休んでいってもいいけど、そんなにすぐ治るものでもなさそうだね。帰れるならすぐに帰ってもらってもいいんだけど……」
「私、連れて帰ります!」
「は? いいって……」
「大丈夫だから!」
私は強引に、紫月を連れて帰ることにした。
◆
紫月に肩を貸しながら、なんとか家にたどり着いた。
やっぱり、筋トレしといてよかった。
とはいえ、昼間だったからヴァンパイアが辺りをうろついていなかったのが救いだった。
帰ってからずっとベッドで休んでいる紫月に、冷やしたタオルとお粥を持っていく。
「紫月……寝てる?」
返事がない彼の顔を覗き込む。
紫月が目を閉じているのをいいことに、見とれてしまった。
改めて、すごく綺麗な顔だと思った。
……紫月が苦しそうなときに、そんなことを考えるなんて不謹慎だ。
彼の目にかかる前髪を何気なく払う。
すると、おもむろに紫月の瞼が開いた。
「あ、ごめん、起こしちゃって……」
紫月は返事もせずに、ベッドに私を引きずり込む。