きみのためならヴァンパイア
稀血
◆
居心地が悪い。
実家のベッドみたいだ。
物は悪くないけど、息苦しい。そんな感覚。
こんなところにいたくない。
意識が覚醒したのは、自分の咳によってだった。
微細なほこりが気管に侵入したのがわかる。
最悪の目覚めだ。
むせて、涙でぐずぐずの目を開く。
ここは薄暗い大空間ーーの、一角のようだ。
辺りに無造作に置かれているのは、錆びた機械のようなものや鉄パイプだ。無骨なライトが周囲をまばらに照らしている。
廃工場といった感じの雰囲気だ。
そして、それらには不似合いな、大きくてふかふかのソファの上に、私は寝かされていたようだった。
嗅がされた薬品がまだ残っているのか、からだがだるい。
どことなく頭もくらくらする。
近くに人影はなく、私をここへ連れてきたのが誰かもわからない以上、声を出すのもはばかられる。
私の家族じゃなさそうなのは確かだ。
そうなると、誘拐……?
けれど私の手足も自由なまま、見張りもいないなんて、誘拐犯が何を考えているのかわからない。
……とにかく、出口を探そう。
誘拐犯の目的も正体もわからないが、逃げてしまえば関係ない。
うまく動かないからだへの不安を消し去るように深呼吸をして、立ち上がる。
その瞬間、私の肩に誰かが触れた。
「おはよ」