人質公女の身代わりになったら、騎士団長の溺愛に囚われました
6 一夜
晩餐の後、ローザはディアスに呼ばれて彼の部屋に向かった。
ローザに与えられた部屋の中にある、青い蔦模様の縁取りで彩られた扉は、彼の部屋につながっていた。
ローザの部屋には春の野花がちりばめられたタペストリーが一面壁を飾っていたが、彼の部屋には薔薇が一輪だけ花瓶に飾られていた。黒いビロードのじゅうたんが敷かれていて、おそらく真昼でも夜のような雰囲気が立ち込めるのだろうと思った。
ローザが部屋に入ったとき、ディアスは暖炉に屈みこんで静かに燃える火をみつめていた。その横顔は荒々しい戦争とは程遠く、聖職者のようにも見えた。
ローザの足音に気づいたのか、ディアスは振り向いてローザを見た。
「冷えるだろう。先にベッドに入っておいで」
ディアスが示したのは黒い毛皮の敷き詰められた寝台だった。ローザは少しためらったものの、そちらに足を向ける。
妻に迎えるというのは、子を産ませるということだろうか。母が受けた暴力に思いを馳せて、ローザは恐れに怯んだ。
ディアスも暖炉の側から立ち上がって、寝台の方に足を向けた。彼がじゅうたんを踏んで近づく足音が、ローザには死刑の宣告のように聞こえていた。
ローザはまだ寝台に横たわることができないでいた。途方に暮れたように寝台に座り込んで、罰を受ける前のように身を竦めていた。
ディアスはそんなローザを見下ろして淡くほほえむと、彼女の頭を引き寄せてそっと額をなでた。
「大丈夫だ。……今日は何もしない」
ディアスはローザを腕に抱いて横たわると、黒い毛布を引き寄せて彼女を包む。
「君と一日の終わりを迎えられた。今日はそれだけでいいんだ」
彼の低い声と、黒い毛皮の敷き詰められた寝台に包まれていると、ローザの中のいばらのような恐れが少しほどけていく心地がした。
部屋はまだ冷えていて、ローザはぬくもりを求めるように彼の胸に身を寄せた。
「今はそれだけでいい」
ディアスはそんなローザを腕に抱きながら、小さくつぶやいた。
ローザに与えられた部屋の中にある、青い蔦模様の縁取りで彩られた扉は、彼の部屋につながっていた。
ローザの部屋には春の野花がちりばめられたタペストリーが一面壁を飾っていたが、彼の部屋には薔薇が一輪だけ花瓶に飾られていた。黒いビロードのじゅうたんが敷かれていて、おそらく真昼でも夜のような雰囲気が立ち込めるのだろうと思った。
ローザが部屋に入ったとき、ディアスは暖炉に屈みこんで静かに燃える火をみつめていた。その横顔は荒々しい戦争とは程遠く、聖職者のようにも見えた。
ローザの足音に気づいたのか、ディアスは振り向いてローザを見た。
「冷えるだろう。先にベッドに入っておいで」
ディアスが示したのは黒い毛皮の敷き詰められた寝台だった。ローザは少しためらったものの、そちらに足を向ける。
妻に迎えるというのは、子を産ませるということだろうか。母が受けた暴力に思いを馳せて、ローザは恐れに怯んだ。
ディアスも暖炉の側から立ち上がって、寝台の方に足を向けた。彼がじゅうたんを踏んで近づく足音が、ローザには死刑の宣告のように聞こえていた。
ローザはまだ寝台に横たわることができないでいた。途方に暮れたように寝台に座り込んで、罰を受ける前のように身を竦めていた。
ディアスはそんなローザを見下ろして淡くほほえむと、彼女の頭を引き寄せてそっと額をなでた。
「大丈夫だ。……今日は何もしない」
ディアスはローザを腕に抱いて横たわると、黒い毛布を引き寄せて彼女を包む。
「君と一日の終わりを迎えられた。今日はそれだけでいいんだ」
彼の低い声と、黒い毛皮の敷き詰められた寝台に包まれていると、ローザの中のいばらのような恐れが少しほどけていく心地がした。
部屋はまだ冷えていて、ローザはぬくもりを求めるように彼の胸に身を寄せた。
「今はそれだけでいい」
ディアスはそんなローザを腕に抱きながら、小さくつぶやいた。