彼女はまだ本当のことを知らない
 チカチカと目の前に光が煌めく。

「わ、私…」
「イっちゃった?」

 動きを止めたテイラーにそう言われ、これがそうなのだと初めてのことに驚く。

「でも、俺はまだイケてないから、もう少し付き合ってね」
「え、あ、や、ああ…」

 イッたばかりで余韻が残るタニヤの中で、まだ大きいままのテイラーが動き始めた。
 それから何度も何度も小さな波が彼女を襲い、やがて再び、さっきよりも大きな波が彼女を飲み込んだ。

「く、タニヤ」

 体の奥に熱い何かが注ぎ込まれるのを感じながら、タニヤは仕事の疲れやテイラーにバイトのことを知られてから、ずっと眠れないでいた緊張が緩んだせいで、いつの間にか意識を失っていた。

 ◇◇◇◇◇◇

「番」は会えばすぐにわかる。
 獣人は皆、口を揃えてそう言う。
 だが、ランスロットは半信半疑だった。本当にそんなことあるのか。
 女のコは皆可愛いと思う。
 身分や容姿に恵まれた自分に好かれようと、努力しているのを見ると、好ましく思う。

 獣人の中には、番に会えず精神を病む者も多く、自分もいずれそうなるのだろうかと、不安に思っていた。
 もしそうなら、今のうちに人生を楽しもう、そう考え来る者拒まずで楽しんでいた。

 タニヤ=カルデロンを初めて見た時、全身の肌が粟立ち毛が逆立った。
 ドクンと心臓が跳ね、彼女の周りだけ光り輝き、それ以外の景色が霞んだ。

 それまで女性の好みは一貫していなかったが、彼女の全てが自分の好みだと思った。

 ほしい。今すぐ彼女がほしい。
 そう思ったが、流石に職場で初対面で口説くことはできなかった。
 彼女は獣人ではない。
 獣人同士なら互いに番だと認識しあい、出会った瞬間から激しく求め合う。
 だが、相手が獣人でないと話は違ってくる。
 獣人の番になることに夢を持っている人も多いが、その重すぎる愛を受け止めきれない人もいる。
 過去には強引な態度にすっかり嫌われてしまい、番を失うという獣人にとっては最大の悲劇に見舞われた者もいる。
 だから彼は慎重になって彼女のことを調べ、観察した。

 女性関係はきっぱりと断った。もう彼女以外の女性を抱くなどありえない。
 群がる女性を適当にあしらっていると、過去の自分に対する噂だけが独り歩きし、未だに派手な女性関係を続けていると思われていた。

 彼女に女性に対して節操がないと思われているのが辛かった。

 実家が貧しく給料の殆どを仕送りしているタニヤ。
 寮に住み、少ないお金をやり繰りして苦労しているのを見ると、助けてやりたいという気持ちが湧いた。
 でも理由もなく自分が支援を申し出ても、きっと彼女は嫌がるだろう。
 幸い好意は感じてくれているようだが、それは職場の上司としてだろう。

 軽い冗談なら言えるのに、本気の告白になると、嫌われ拒まれるのが怖くて口にできない。
 自分がこんなに恋愛下手だとは思わなかった。

 彼女は自分が異性にもてないと思っているようだが、それは違う。隊員の中にも、訪れる客の中にも、出入りの業者の中にも、彼女のことを気にかける男はいた。
 それを察し、密かに潰してきた。
 合コンで出会った男がちょっかいを出そうものなら、裏で脅して手を引かせた。

 最近は恐れをなして彼女に手を出そうとする者は殆どいなくなったが、空気の読めない輩はまだまだいる。
 常に目を光らせる必要があった。

 いつ彼女を自分のものにする? そろそろ告白しようか? 
 欲求不満は募り、彼女を見るだけで切なく胸が焦げそうになる。

 そんな時、あれが届けられた。

 もうすぐ自分の誕生日。これまで彼女から貰ったのは、受付係一同からです。と贈られた品物の中に添えられたカードだけ。
 それでもそれは額に入れて部屋に飾ってある。
 そのカードに残った残り香や、密かに収集した彼女の私物の匂いを嗅いで、自慰にふけることもある。

 その香りは一番上の薄い箱から漂ってきた。

「まさか…」

 今年はついに彼女から個人的にプレゼントが?
 ドキドキしながら開けると、中身を見て驚いた。

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