彼女はまだ本当のことを知らない
「おっと」
驚いて足下がよろめいて倒れかけたのを受け止めたのは
「た、たたたたた隊ひょう!」
至近距離にある美麗で男らしいテイラー隊長の顔があり、舌を噛んでしまった。
「ど、どう、どうし・・」
「俺の部屋に俺がいておかしいか?」
正論だ。
「そ、そうですね。す、すみません」
抱き留めるテイラーの腕から逃れようともたもたとする。
「で、君は俺の部屋で何をしているのかな?」
「へ?」
「俺に用・・って感じでもないよね」
「い、いえ・・その・・さ、さっき運んだ荷物の中に他の方への荷物が紛れていたと思って」
「他の人の?」
「はい、それで」
「それって、これのこと?」
そう言ってテイラーはタニヤが探していた箱を目の前に見せた。
「そ、そうです。ありがとう・・」
タニヤが手を伸ばすと、彼はそれを彼女の手が届かないように腕を伸ばして高く掲げた。
「た、隊長?」
「他の人って、誰の?」
口元は笑っているが、その目は油断ならない光を放っている。
「だ、誰って・・それは言えません。そ、その方の迷惑になりますから」
「ふう~ん」
含みのある笑いで、テイラーがジャケットの内ポケットから紙を取りだした。
「ファニタ・ルキアッチェ様 新作の感想を送ります。直接肌に触れる部分ですので、縁のレースはもう少し編み目が細かい方がいいと思います。それと、襟ぐりはもう少し深くして谷間がきっちり見える方がいいかと思います。ショーツはカットをもう少し大胆にしたデザインも造って選べるようにしてもいいかも知れません。
タニヤ・カルデロン」
さあ~っとタニヤの体から血の気が引いた。
「ファニタ・ルキアッチェって、女性の服や下着なんかを売っている「ルキアッチェ」のオーナー兼デザイナーだよね。それにタニヤ・カルデロンは、俺の記憶が間違っていなければ君のことだよね」
「そ、そうでしたっけ~」
もはや目を合わせられず明後日の方向を見ながらとぼけてみたが、そんな誤魔化しが通用するしないことはわかっている。
「ど、どうして中身を」
他の箱は開けた気配すらないのに、なぜ自分の箱だけをすぐに確認したのだろう。
「獣人の鼻を甘く見ちゃいけないな。この箱からはすっごく、すっごおく君の匂いがしてきた」
「え、そんなはずは」
直接肌に身につけたものだから、返す前にはきちんと洗っている。
「そう、だから君の家で使っている洗剤の香りだ」
クンと封筒の匂いを嗅ぎ、それからタニヤに鼻を寄せて耳の後ろを嗅いだ。
「ひっ」
思わず頭を後ろに引く。
「か、返してください。それ、今日の内に返さないと、お金もらえないんです」
「お金?」
「そうです。着心地を確かめて感想を書いたらお金をくれるんです」
「へえ、そうなのか。お金のため」
「皆が皆、隊長みたいにお金持ちじゃないんです」
「別に、そんなこと」
わかっている。隊長は馬鹿にはしていない。これは自分の給料を好きに使い散財し、遊び回っている彼に対しする八つ当たりだ。
「返してください」
泣きそうな顔になって懇願する。
「ねえ、今度、それ着たところ見せてくれる?」
「は?」
「着心地、モニターして感想言うだけじゃ無く、実際男から見てどうか、そう言う意見もあった方がいいと思わないか?」
「なに言って・・」
「そしたら、このことは黙っていてあげる。君のご両親、娘がこんなバイトしていると知ったらどう思うかな」
「ぐ・・」
何も言い返せないでいる私を尻目に、テイラーは机に向かって歩いて行き、ペンを取り上げ何か書き足し、それを封筒に入れて封印すると、箱に放り込んだ。
「これは俺から届けておくよ。君に渡すと中の手紙を捨てちゃいそうだから」
何を書いたの? タニヤはそう思って聞こうとした。
「隊長、そろそろ会議を始めますよ」
副隊長がテイラーを呼びに来た。
「今行く。じゃあ、そういうことで、今度こそお疲れ様」
自分が執務室を出るときにタニヤも追い出し、彼は部屋に鍵を閉めた。
「そうそう、君宛ての試作品は今後俺の所へ送ってくれるように書いたから、俺の所に取りに来るように」
「そ、そんな・・・・」
書き足した内容を聞いて、絶望的な声を出す。
出て行く隊長の尻尾が楽しそうにブンブン揺れていたのを思い出す。
私は隊長の執務室の前の廊下で、へなへなと崩れ落ちた。
あ、あり得ない。
隊長に知られてしまった。
しかも、今度は下着を身につけたところを見せなければならない。
その後どうやって寮へ帰ったのかよく憶えていない。
窓口を通り過ぎるときフューリ達に「見つかりましたか?」と訊かれ、どう答えて良いかわからず無言でコクリと頷いた。見つかったのは見つかった。
夜勤明けの勤務は次の日の日勤から始まる。その日はどこへも出かけず、一日寮の部屋に引き籠もっていた。
驚いて足下がよろめいて倒れかけたのを受け止めたのは
「た、たたたたた隊ひょう!」
至近距離にある美麗で男らしいテイラー隊長の顔があり、舌を噛んでしまった。
「ど、どう、どうし・・」
「俺の部屋に俺がいておかしいか?」
正論だ。
「そ、そうですね。す、すみません」
抱き留めるテイラーの腕から逃れようともたもたとする。
「で、君は俺の部屋で何をしているのかな?」
「へ?」
「俺に用・・って感じでもないよね」
「い、いえ・・その・・さ、さっき運んだ荷物の中に他の方への荷物が紛れていたと思って」
「他の人の?」
「はい、それで」
「それって、これのこと?」
そう言ってテイラーはタニヤが探していた箱を目の前に見せた。
「そ、そうです。ありがとう・・」
タニヤが手を伸ばすと、彼はそれを彼女の手が届かないように腕を伸ばして高く掲げた。
「た、隊長?」
「他の人って、誰の?」
口元は笑っているが、その目は油断ならない光を放っている。
「だ、誰って・・それは言えません。そ、その方の迷惑になりますから」
「ふう~ん」
含みのある笑いで、テイラーがジャケットの内ポケットから紙を取りだした。
「ファニタ・ルキアッチェ様 新作の感想を送ります。直接肌に触れる部分ですので、縁のレースはもう少し編み目が細かい方がいいと思います。それと、襟ぐりはもう少し深くして谷間がきっちり見える方がいいかと思います。ショーツはカットをもう少し大胆にしたデザインも造って選べるようにしてもいいかも知れません。
タニヤ・カルデロン」
さあ~っとタニヤの体から血の気が引いた。
「ファニタ・ルキアッチェって、女性の服や下着なんかを売っている「ルキアッチェ」のオーナー兼デザイナーだよね。それにタニヤ・カルデロンは、俺の記憶が間違っていなければ君のことだよね」
「そ、そうでしたっけ~」
もはや目を合わせられず明後日の方向を見ながらとぼけてみたが、そんな誤魔化しが通用するしないことはわかっている。
「ど、どうして中身を」
他の箱は開けた気配すらないのに、なぜ自分の箱だけをすぐに確認したのだろう。
「獣人の鼻を甘く見ちゃいけないな。この箱からはすっごく、すっごおく君の匂いがしてきた」
「え、そんなはずは」
直接肌に身につけたものだから、返す前にはきちんと洗っている。
「そう、だから君の家で使っている洗剤の香りだ」
クンと封筒の匂いを嗅ぎ、それからタニヤに鼻を寄せて耳の後ろを嗅いだ。
「ひっ」
思わず頭を後ろに引く。
「か、返してください。それ、今日の内に返さないと、お金もらえないんです」
「お金?」
「そうです。着心地を確かめて感想を書いたらお金をくれるんです」
「へえ、そうなのか。お金のため」
「皆が皆、隊長みたいにお金持ちじゃないんです」
「別に、そんなこと」
わかっている。隊長は馬鹿にはしていない。これは自分の給料を好きに使い散財し、遊び回っている彼に対しする八つ当たりだ。
「返してください」
泣きそうな顔になって懇願する。
「ねえ、今度、それ着たところ見せてくれる?」
「は?」
「着心地、モニターして感想言うだけじゃ無く、実際男から見てどうか、そう言う意見もあった方がいいと思わないか?」
「なに言って・・」
「そしたら、このことは黙っていてあげる。君のご両親、娘がこんなバイトしていると知ったらどう思うかな」
「ぐ・・」
何も言い返せないでいる私を尻目に、テイラーは机に向かって歩いて行き、ペンを取り上げ何か書き足し、それを封筒に入れて封印すると、箱に放り込んだ。
「これは俺から届けておくよ。君に渡すと中の手紙を捨てちゃいそうだから」
何を書いたの? タニヤはそう思って聞こうとした。
「隊長、そろそろ会議を始めますよ」
副隊長がテイラーを呼びに来た。
「今行く。じゃあ、そういうことで、今度こそお疲れ様」
自分が執務室を出るときにタニヤも追い出し、彼は部屋に鍵を閉めた。
「そうそう、君宛ての試作品は今後俺の所へ送ってくれるように書いたから、俺の所に取りに来るように」
「そ、そんな・・・・」
書き足した内容を聞いて、絶望的な声を出す。
出て行く隊長の尻尾が楽しそうにブンブン揺れていたのを思い出す。
私は隊長の執務室の前の廊下で、へなへなと崩れ落ちた。
あ、あり得ない。
隊長に知られてしまった。
しかも、今度は下着を身につけたところを見せなければならない。
その後どうやって寮へ帰ったのかよく憶えていない。
窓口を通り過ぎるときフューリ達に「見つかりましたか?」と訊かれ、どう答えて良いかわからず無言でコクリと頷いた。見つかったのは見つかった。
夜勤明けの勤務は次の日の日勤から始まる。その日はどこへも出かけず、一日寮の部屋に引き籠もっていた。