若頭
 なのに、気づいた時には腕を掴まれ、互いが向き合うように男に強引に振り向かせられている状況に陥っている自分がいる。




「ッ……」




 一瞬すぎて自分でも混乱する程の無駄のない動き。





 現在進行形でパーティー真っ只中で、中の煌びやかな空間に他にも人間は沢山いる。




 なのに、どうして、私がこの男に捕まってるの?



 掴まれている陶器のように真っ白なのに、少しゴツゴツして大きな手に感じるのはきっとおとこだからだ。



 だが男性にこの距離感で触れられることはまぁない。



 だけれど痛みか、焦りか掴まれた腕が熱くなる。





 自分は両親や弟と共に偉い方への挨拶周りを終えた。



 たとえ今現在、独りで何処か違う場所へ行って激怒される。


 そんな結果が待っているとしても、この場から一刻も離れなければ……ッ。



 だから、誰の目にも触れないように……不自然にならないように、両親の許可なく直ぐに帰ろうとした。



 この男に見つからないようにする事を1番にし、避けてきたというのに……。



 どうして出会ってしまったの?


 彼と一緒にいる所を父親たちに見つけられる訳にはいかない。





 そうなる前にこの場所から一刻も早く離れなければならないと言うのに……。





「ごめんなさいッ……お酒の御相手は私には難しいかと……」





 目を合わせず相手に対して接する。




 そんな事は、明らかに失礼な行為だと思うが、視線をなるべく下に向けたまま逃げるように、会話を終わらせようとする。




 何故なら、関わってはいけない人物に声をかけられたからだ。




 この男を知らない訳がない。
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