若頭
 電話をかけ始めてから、何コールかした。



 このままずっとコール音が鳴り響き、誰も電話をでなければ良いのになんて考える。


 だが、私の気持ちを否定するように、そのような考えが浮かんだ1コール後に電話は繋がった。



「はい、お待たせしました」



 まだ耳にハッキリとその状況と同時に覚えている。


 さっき聞いたばかりで耳に残る、あのなんとも言えないけれど人を見透かすような低い妖艶な声。


 その声が、スマホ越しに聞こえた。




「今日お会いした三ノ宮家の優羽と申します。お時間大丈夫でしょうか……」





「うん、勿論、いいよ」




 業務から全てにおいて忙しい筈の彼は直ぐに取り合ってくれた。




 驚きなのは、彼自身が私の電話に出た事だ。


 まぁ、どの電話番号からかかっているかなんてすぐ分かる。


 今じゃかかってきた電話番号をネット検索すれば会社名から全て割り出せる時代だ。


 それにしてもおかしい。


 普通なら、執事か周りのものが電話に出て、要件を聞き入れた後、引き継ぐ。



 それなのに、どうして彼が……。


 出なくて良いのに……。





「今日の……お誘い……是非お受けさせて頂きたいです。先程は驚いてしまって……上手く挨拶も出来なかったので」





「そう……君が自分自身で決めたんだね?」




「はい……」




「嬉しいよ、優羽ちゃん本人の口から伝えてくれるなんてね。近いうちに使いを寄越すから食事でもどうかな」





「はい……楽しみにしています」


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