色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 帰り際、王妃は何かを思い出したかのように「そうだわ!」と呟いた。
「今度は是非とも、イバラさんの旦那様と一緒にいらしてね」
 まったくもって、悪気のない一言だったのだろうけど。
 私は顔をしかめてしまった。
 その表情を見逃さなかったのか。
 王妃の侍女は「ふんっ」と鼻で笑いやがった。

 夫である太陽様とは、どれだけ会ってないっけ?
 以前は一週間に一度ぐらいは顔を合わせていたような気がするのに。
 近頃はほとんど会ってない…顔を見てもいなかった。

 テンションだだ下がりの状態で王妃と別れ。
 馬車に乗ると。「はあー」と盛大にため息が出た。
 ゆっくりと、馬車が動き出す。
 ぐったりとしていると、「マヒル様」と真剣な表情でバニラが呼んだ。

「今まで、訊くことが出来ませんでしたが。この際なので質問させて頂きます」
「なあに?」
「マヒル様は国王のことをどのように思われているのですか?」
 バニラの真っ赤な瞳が私を映し出す。
 私は、少し黙って。
「どうと言われても…」
 とうやむやに答えた。
「国王のことを愛していらっしゃるのですか?」
 アイシテイル。

 バニラの言葉に驚いて、ビクッと身体を震わせてしまった。
 ローズ様のことを一度だってバニラに話したことはなかった。
 ローズ様と会うとき、側にバニラはいなかった。
 だから、私がローズ様と会うとき、どんな表情をしているか彼女は知ることができない。

 私はバニラから視線をそらして窓の外を眺めた。
「…正直、国王が結婚したと聞いたときはショックだったよ」
「……」
「でも、考えてみたら。国王に対して恋愛感情を抱いているかどうかは、わかんない。会えないし。この先も会うこともないだろうし」
「では、太陽様は?」
「太陽様かー。難しいね」
 夫を好きかどうか、即答できない。
 なんて、私は嫌な奴なのだろう。
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