色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 王妃とのお茶会から一週間が経った。
 ご近所付き合いの広いバニラは、情報を集めたところ。
 王妃は、ザーラ様…という呼び名だそうで。
 あの生意気な侍女はトラトラと言って。
 ザーラ様が誘拐された際に一緒に付いてきた侍女だという。

 知り合いのいないティルレット王国にいきなり連れてこられて。
 王妃として、宮殿で生活するというのは過酷ではないかと。
 王妃に同情する人が多数だそうだけれど。
 バニラ曰く、「ザーラ王妃は大丈夫ですわ」と妖精の勘で言った。
 私もバニラの言うことは賛成だ。
 彼女は生まれ持っての王妃としての器があると思う。

 童話「シンデレラ」ではシンデレラが最後、王子様と結婚してめでたしめでたしで終わるけど。
 実際のところ、シンデレラは慣れない王室での生活に耐えられたのか? というのを疑問に思う人がいる。
 庶民が急に貴族のところへ嫁いでも。
 礼儀や教養がなければ、一瞬でそこは地獄になるのではないだろうか。
 頭が良ければ付いていけたのかもしれない。
 もしくは、相当なるポジティブ思考だったらいいだろう。
 愛だけじゃ、上手くいかない。
 それが、悲しいことに現実なのだから。

 夢見る少女時代を、すぐにぶち破ったのは小学校に入ってすぐだと思う。
 それなりに元貴族としてのマナーを学んできたつもりだけれど。
 上には上がいるってことを同級生と触れ合って知った。

 生まれたときから、お姫様として育ったザーラ王妃は。
 きちんとした教養、マナーを持っている。
 そういえば、ザーラ王妃は12人兄弟だそうで。
 年上にも年下との接し方もよくわかっていらっしゃるとか。

 トレードマークというか…会った時に「おや?」と思った太い眉毛や髪の毛は。
 結婚するまで身体に剃刀を入れてはいけない…という王国独自のルールがあるそうで。
 王妃は生まれてから一度も髪を切ったことがないそうだ。
「さぞかし、ご入浴は大変でしょうね」
 と、変なところでバニラが同情をしている。
「ま、でも結婚したから切るんでしょう?」
 とバニラに言った。

 ザーラ王妃の侍女であるトラトラは。
 バニラが言うには「尖っている」らしい。
 相談できる人もいなければ、いきなり異国に来てしまったわけで。
 精神的にも荒ぶっている様子で。
 感情をすべて私にぶつけているんじゃないかと、怒るようにバニラが言った。
< 14 / 74 >

この作品をシェア

pagetop